翌日の昼休み、北村を誘って昼食に出る。
「君が失くしたキーはこれじゃないのか?」
「どっ・・どこに・・・・・・・」
「ああ、不思議な事に脱衣場の隅に落ちていた」
「・・・・どうして・・・課長の・・・・・・・・・」
奴は何も喉を通らないようで、私が食べ終えてもただ俯いている。
「食べないのか?」
「お腹が痛くなってきて・・・・・」
外へ出ると、風がいつもよりも心地良い。
その夜妻は、また懲りずに玄関まで出迎えにきた。
「北村さんから、あなたを誤解させてしまったかも知れないと電話があって・・・」
「その話は後だ。腹が減った」
普段なら、こんな偉そうな言い方をすれば当然切れられる。
しかし妻は。
「そうですよね。一生懸命働いてきてくれたのだから」
私は覚悟して亀のように首をすくめていたが、この言葉を聞いて首を伸ばして胸を張る。
妻は食事中もずっと落ち着かず、早く言い訳をしたくて仕方が無い様子だ。
食事が喉を通るだけ、北村よりは図太いが。
「さっきの話しだけれど・・・・・」
「先に風呂に入る」
案の定妻は、背中を流しに来た。
「実は、昨日近くまで来た北村さんが、以前あなたを送ってきた時に傘を忘れていかなかったかと尋ねに寄られて、その時に車のキーを無くされたから、捜していて長くなってしまったの。だから変に誤解でもされると嫌だからと、2人共黙っていて・・」
「傘ぐらいで?」
「ええ。奥様から初めてプレゼントされた思い出の傘なんですって。当然疚しい事なんて無いのだけれど、あなたに無駄な心配を掛けないように・・・・・」
「でも、どうして脱衣場に?」
「北村さんが帰られてから玄関の隅に落ちていたのを見つけて、ポケットに入れておいたのを忘れてしまって、今度は私が落としたらしいの」
おそらくあの後電話で、2人で必死に考えて話し合った言い訳なのだろうが、上手く考えたものだと心の中で拍手する。
「昨日はごめんなさい。急に気分が悪くなってしまって・・・・」
「そうか。でも、飯は食えた」
「いいえ、それは・・・・・・・・」
それにしても言い訳をする時の、妻の言葉使いは何と優しい事か。
「久し振りに、真美も一緒に入ったらどうだ」
「子供達が起きているから・・・・・」
裸を見せて私が興奮してしまい、私がその気になって北村との約束を破ってしまうのが怖いのか?
それとも、裸を見せる事すら禁じられているのだろうか?
余りにもお淑やかな妻が違う女に見えてしまい、裸を見るまでも無く私のオチンチンは硬くなり出した。
それを見た妻は慌てて出て行き、いつものように私に手伝えとも言わずに、黙って洗い物をしていた。
「今夜、久々にどうだ?」
「子供達が試験前で遅くまで起きているから、また今度にしましょう」
北村に私とのセックスを禁じられている前とでは、2人の台詞は逆転している。
私が何度も誘うので、子供達の様子を見に行った妻は子供部屋から出てこずに、結局この夜寝室には来なかった。
翌日は北村が昼食を誘ってきて、隠していた事をひたすら謝る。
「正直に話してくれれば良かったのに。一回り以上違う君と女房が、変な関係になるなんて疑うはずが無いだろ。それに、いくら妊娠中でセックスが出来無くても、あんな若くて綺麗な奥さんと離婚の危機を迎えるかも知れない危険を冒してまで、あの女房と関係を持つなんて考える方がおかしいよ」
私が疑っていない事を妻に連絡したようで、その夜の妻は以前の妻に戻っていた。
「家で出来無いのなら、ラブホテルにでも行かないか?」
「そんな勿体無い事は嫌。それに、どうせ私を満足させられないくせに、偉そうに誘わないでよ。私は御免だから、出したければ自分で出せば。ネットを見ながら右手のお世話になるのがお似合いよ。そういうのは得意でしょ?」
隠れてしていたつもりが知られていた。
私はもう少し気付いていない振りをして、小出しにして反応を楽しむつもりだったが、良い歳をして自分で処理していた事を知られていた恥ずかしさに耐えられなくなり、興信所の写真を一枚妻の目の前に叩き付けて家を出た。
明け方出社する為に着替えに戻ると、いつから来ていたのか北村がいて、私に気付くと2人並んで土下座する。
しかし私はそんな2人を無視して出社したが、北村は妻と今後の事でも相談しているのか、風邪を理由に欠勤した。